認定新規就農に向けての話の2回目です。今回は、私たちがどのように認定を取得できたかを取り上げます。認定はそうそう簡単なものではありません。私たちの体験談をご覧ください。
取得に向けた課題
非農家から新たに農業を始めるとなると、クリアしなければならない大きな課題がたくさんあります。私たちにとっての課題は、数多くありましたが、特に大きい課題は下の3つでした。
- 農地の取得
- 初期投資資金・経営資金の確保
- 栽培技術の習得
認定新規就農者になると、認定新規就農者でなければ対象とならない支援や融資を受けることができます。
そのため、この3つの課題のうち、2番目の「資金の課題」の解決の大きな助けになります。
認定にはかなりの労力を必要とし、さらにブルーベリー観光農園では取得が難しいと言われる中、私たちは初期投資額が大きいこともあるため、この認定の取得を目指したのです。
取得が難しい4つの理由
認定の要件として、市区町村の基本構想に適合し、ご自身で作成された「青年等就農計画」の達成が十分可能であることが重要となります。そのため、認定を取得するのは難しい、とたくさんの方々に言われるのはこの理由からです。
ふり返ってみて、私たちが認定を目指す中で、難しさを感じた理由を4つ挙げてみました。
- 農地を所有していることが大前提
大前提として、認定の対象者は、農地をすでに所有(または取得)していることが挙げられます。なぜなら、この制度は、農業にとって大切な「農地」を守ってくれて、この農地をきちんと活用できる人を認定するものなのです。新規就農を目指す人は農地を所有していないことも多いため、まず農地取得の壁に突き当たるのです。私たちも農地を取得していなかったので、最初に相談に行った際に、まずは農地を取得してからがスタートになります、と言われました。 - 夢や頑張りをサポートしない
自分の夢や構想を熱く語っても、そもそもこの仕組みは、夢のサポートを目的としていません。この制度は、農業の未来の担い手を確保・育成していくことが目的だからです。そのため、何かしらの栽培実績(栽培の研修なども含む)がないと認定に至る根拠としては弱くなってしまいます。 - 「前例」との戦い
私たちが、市に相談に行ったとき、「なんでブルーベリーなの?」と何度も言われました。ブルーベリー栽培、しかも養液栽培で新規就農を目指すことが、前例のないことだったのです。市や県の担当課は、ブルーベリーのポット式養液栽培方法やそれに伴う収量などの情報をもっていなかったこと、市でのブルーベリー出荷経路がまだ確立されていないことを理由に、「農業面の助言やバックアップができない」「本当にこの栽培方法で農業として成立できるのかの確証がとれない」ということから、認定が困難と言われてしまいました。 - 事業形態の指摘
また、「観光農園」という形態もネックのひとつと言われました。つまり、出荷先が決まっていて、売り上げがきちんと見込まれるのであれば、計画として成り立ちます。しかし、観光農園の形態だと、集客数が不確定であるため、正確性・信頼性に欠けると指摘されました。
前例のないことを
行政に認めてもらうには
こちらの「想い」はあまり関係ありません。
「実績」のみです!
「農地取得」と「事業計画」と「栽培実績」
上記の理由を踏まえた上で、私たちがどのように認定を取得したのでしょうか。
初めにしたことは、情報収集です。
ますは、インターネットでリサーチです。しかし、やはり実際の話が聞くことが最も近道と考えました。
私たちの目指すブルーベリー観光農園を営む方で、非農家から認定を取得した方と連絡をとり、お会いして取得までの経緯をお伺いしました。
その方の助言を参考にしつつ、私たちは「農地」「事業計画」「栽培」の3本柱をほぼ同時に進めていきました。
2021年
まずは「農地の取得」を目指しました。しかし、思うように進まず、時間だけが過ぎていきました。
初めに大きな農地や立地を優先して探していましたが、なかなかうまくいきません。
同時に「事業計画書」の作成にも着手しました。
具体的には、事業全体に関する事業費全体の試算です。この事業にいったいどれだけの資金が必要なのか…。
この時期は、まだ自分たちのイメージを固めるために試算していました。
また、今後の試算のために、エクセルへ計算式をこつこつと入力していきました。
「事業計画書」を作り始めると同時期に、栃木県の芳賀農業振興事務所へも相談に行きました。
振興事務所は認定新規就農のための申請書および
5か年計画を作成するための助言をもらえる機関です。
なぜこんな初期に相談に行ったかというと、認定を取得された皆さんからの経験談があったからです。
認定者の皆さんは何度も何度も県の振興事務所へ足を運び、助言をもらいながら進めていたこと、認定を取得するまでに1年程度かかったということを話されていました。
そのため、私たちは農地が見つかったらすぐ、開園に向けて進めていきたかったので、この段階から相談に行ったのです。
まだ農地は取得していない私たちでしたが、担当者にはできるだけ早い段階で、目指す農園のイメージを伝え、申請のために必要な情報を少しでも得たかったのです。
しかし・・・
ここでも、農地が見つからないと何も話は進められないので、まずは農地を見つけてくださいと言われてしまいました。それでも得られた情報はありました。
- 青年等就農計画の様式をいただけたこと
- 農地を見つけることが最優先ということを再認識
- 早い時期に相談に行ったため、基本情報が担当者に伝わり、以降の面接がスムーズになったこと
その後は農地が見つかるまで、県の振興事務所との連絡を取ることなく、ひたすら農地探しに励む毎日でした。
と同時に、事業計画書に手を加えていきました。
2022年
農地を探し始めて約1年。いろいろ手を尽くすうち、あることに気付きました。
農家の皆さんに認めてもらうためには、「栽培実績」が必要なのでは?
そこで、私たちは小規模でも栽培できる場所を探しました。(詳しくは下の記事)
11月―。
発想を転換したこともあり、ブルーベリーの栽培地を無事に確保できた私たち。
そこで、360株の養液栽培を始め、「栽培実績」を積むことにしました。この場所で、(株)オーシャン貿易の専門家から随時アドバイスをいただきながら、現在も栽培技術の習得を目指しています。
養液システムの操作を覚えたり
コガネムシやカミキリムシの幼虫を発見したり…
この「栽培地での実績」が後々に驚きの解決策を生むことになります!
2023年
2月―。
栽培実績とたくさんのご縁のお陰で、ついに本拠地となる「農地」を取得することができました。
その経緯については下にまとめてあります。
まず、お借りできた農地の広さからブルーベリーの栽培本数を決定し、2年かけて作り上げた「事業計画書」に数字を入力していきました。それにより、事業に関わるイニシャルコスト・ランニングコストの試算から、年間の粗利益、キャッシュフローなどを試算していくうち、だんだんと現実的な数字になってきました。
2021年から、荒削りの「事業計画書」を基に、農園のイメージを県の農業振興事務所に伝えていた私たちです。
初めて相談に行った日から期間は空いてしまいましたが、県の担当者の方もきちんと覚えていてくれたため、農地取得後の具体的な相談もとてもスムーズに開始できました。
農地を取得することで、さまざまなことが一気に動き出しました。
なんとその県の担当者は、近隣のブルーベリー観光農園さんへ視察に行ったり
開園予定地に足を運んだりしてくださいました。
農地が見つかってからは、現場の確認、具体的な事業計画書の内容、数字の根拠のための資料の作成…。
それから何度も市の農政課の方と、県の方、市の農業委員会の方を交えて面接をくり返し、申請書類を作成していきました。
認定を目指してからここまで約2年間です。いよいよ取得が近づいてきました。が、そう簡単ではありせん。
申請書類の作成
2023年5月―。
「事業計画書」の試算で得た数字を、申請書類である「青年等就農計画」に落とし込みます。
事業に伴う工事や資材の見積もりを取るなど、情報をたくさん集め、正確で現実的な就農計画を立てていきました。
1アールあたり何㎏生産できるのか、
それに伴う収益はいくらか…
農業所得の試算…などなど
当然ですが、この数字は確実・正確なものでないと、認定にほぼ通りません。
例えば、年間の生産量を記載する欄に「1アールあたり100Kg」と記入したとしても、その数字に明確に説明できなければ、何の意味ももたない数字になってしまいます。
「このくらいかな?」という曖昧な数字や
「このくらい作りたい!」という希望の数字ではなく、
「この数字で間違いない!」と言い切れるくらいの
正確な数字を記入します。
この作成に関しても、芳賀農業振興事務所や真岡市の農政課に何度も何度も足を運びました。
前例のないことでしたので、市はとても慎重です。担当者からは、質問や疑問、確認したいことがどんどん投げ掛けられました。それらに対して、しっかりと回答していきました。
加えて、近隣のブルーベリー観光農園さまにもお話を伺いに足を運びました。もちろん、担当からの回答と申請書への数字に根拠を示すためです。
そうした中、県内外でもブルーベリー観光農園が実績としてあることや、市場価格の相場、消費者のニーズ、集客状況など様々なデータを集め、説明していきました。
収穫がまだであっても、
「販路」を確保しておくと
認定取得がぐっと近くなります。
計画が成り立たない?!
「青年等就農計画」を作成している中で、ふたつの難題に当たりました。
ひとつ目は「技術・知識の習得状況」、ふたつ目は、「就農時期」です。このふたつをクリアしないと、計画そのものが成り立たないかもしれません。
私たちは、どのようにこのふたつの難題をクリアしたのでしょうか。
①技術・知識の習得状況
これまで私たちは、実際の農園での実地研修をしていないし、農業大学校などで勉強をしていません。これでは、「栽培の基礎を習得していない」とみなされてしまい、就農計画そのものが成り立たない可能性がありました。
私たちはその点について、近隣のブルーベリー観光農園さまに視察して得た情報や、農園のお手伝い作業、栽培・経営講習会などの実績を丁寧に説明しました。しかし、それらはあまり栽培の基礎の習得にはつながらない、との回答・・・。
栽培の基礎を習得するためには、実績が一番説得力があります。
そこで、担当者は、私たちが現在、「栽培地でブルーベリーを栽培していること」に着目しました。ここでの栽培状況から、「栽培しながら技術・知識を習得していると見なすことができる」と、解決策を導いてくれたのです。
私たちが、「農地を取得するため」「地主さんへの信用を作るため」「農地が見つかり次第、最短で開園できるため」と進めていた「栽培地」が「技術・知識の習得状況」の課題をクリアするための解決策となったのです。
それには、常時栽培指導として(株)オーシャン貿易さまのご支援があったことも要因のひとつでした。
何がきっかけで好転するか分かりません。
②就農時期
「技術・知識の習得状況」の件をクリアして喜んだのもほんの束の間。
次は「就農時期」の問題が出てしまいました。
就農時期がいつになのかは、申請書の中の「5か年計画」を立てる上でとても重要となるからです。
単純に考えてしまうと、就農開始時期は栽培地で栽培を始めた時期である2022年12月になります。
しかし、この年月のまま2023年時に申請してしまうと、本数も少ないし、果樹は定植してから実を収穫するまで数年かかるので、農作物の生産ができない(=収入がない)期間がとても長くなってしまいます。
つまり、就農して数年間は、農作物の生産ができず収入がない状態になってしまうことから、これでは農業で生計を立てらないことになり、認定条件の5か年の就農計画が成り立たないことになってしまいます。
これについては、県も市も担当者の方全員が頭を抱えました。
この解決策を導いてくださったのが、これまで長い期間相談してきた県の芳賀農業振興事務所の担当者さまです。何とか実現できる道があるはずだ、と一生懸命考えてくださいました。
その結果、「ブルーベリーは果樹栽培の特性上、生育期間が長いため、育成の準備期間という考え方に当てはまる」という答えを導き出してくださいました。
つまり、「果樹は定植してから実を収穫するまで数年かかるため、農作物の生産ができない」ことから、現在、栽培はしているものの、「就農」には当たらず、十分な生産量が確保できるまでの「準備期間」に当てはめることができるということになったのです。
申請書には「2024年4月に就農予定」と記載することになりました。
県の担当者さまには感謝しかありません。
そして認定へ
2023年10月―。
このように、たくさんの助言をいただいたお陰で、なんとか完成させることができ、最終版を真岡市農政課に提出をすることができました。
なんと、提出してから約2週間で認定をもらうことができました!
このスピード認定は、初期の段階から長い期間をかけて県や市の担当者さまとまめに連絡を取り合っていたことも、ひとつの要因だと思いました。また、地主さまをはじめ、この期間に知り合うことができた農家さまも、市の担当者へ後押しをしてくださったことを後から聞きました。多く方々に支えられていることを実感しました。
ますます気が引き締まります!
私たちの場合は、関係者の前でプレゼンをしたり、就農計画の説明を行ったりすることがありませんでした。他の市区町村では、そのような機会があったと聞いています。
県や市の担当者と頻繁に連絡を取り合っていたからなのか、そもそも私たちの市にそういった会議が存在しないのかは、詳しいことは分かりません。
市区町村によって、対応は様々だと思います。
まとめ
ここなまで、2回に分けて、理由やメリット、経緯などを書いてきました。長々とお付き合いありがとうございました。少しでも参考になれば幸いです。
- STEP1農地取得と栽培実績
約62アール(6,200平米)の農地を確保
(株)オーシャン貿易の担当者と常時栽培指導 - STEP2試算
エクセルにて収穫量の見込・初期投資、維持費の計算・収支の試算など
- STEP3青年等就農計画作成
試算の数字を計画書へ落とし込み
- STEP4市に提出
提出先は真岡市役所農政課
- GOAL !!青年等就農計画の認定
2週間後、晴れて認定新規就農者へ
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