保健師を18年間務めた私が農業の世界に飛び込んだ理由

私はこれまで、行政で18年間保健師として働いていました。ある想いが高まり、退職を決意し「農業」の世界に飛び込みました。私がどうして保健師を辞め、「農業」の世界に飛び込んだのか・・・。
その理由と想いをお伝えします。

「まち」が直面する危機


私は18年間、保健師として、子育て支援や健康づくりに携わってきました。赤ちゃんから大人までの健診や健康づくりのお手伝い、ときには地域へ出向き地域の方と一緒に活動したり、地元の小中学校で健康について講話をしたりと、日々の業務に大きなやりがいを感じながら仕事をしてきました。

幸運なことに、私のこの経験は、「このまち」や「まちに住む人たち」の素敵な魅力に触れる機会をつくってくれました。
しかし、それと同時に厳しい現実を目の当たりにしました。それは、「まち」の人口がどんどん減り続けているということです。「少子化」という問題は日本全国で避けては通れない大きな課題です。しかし、ここ真岡市では、私の想像以上に人口減少があり、まちの将来的な発展に危機感を覚えたのです。

魅力にあふれたまち

私が住む真岡(もおか)市にはたくさんの魅力があります。
荒神祭 -真岡市HPより-
その中でも、真岡市内が人々のエネルギーに溢れるのは「お祭り」ではないでしょうか。

真岡市は夏になると、毎週のようにお祭りが開催され、たくさんの人とたくさんの活気に満ち溢れます。

「祭り」だけではありません。四季を肌で感じることができる豊かな自然、バランスのよい商工業―。
ほどよい田舎感に溢れています。
そんな魅力にあふれたまちです。
私は、たくさんの人々がこの「自分たちのまちの魅力」に気づき、日々実感しながら生き生きと過ごすことができたら、自然とシビックプライドが生まれ…みんなでまちをつくっていこうという動きが生まれてくるのではないかと考えました。
そうすれば、大好きなこのまちが、子どもたち、孫たちの代へとさらに大きく発展し、いつまでも続くような素晴らしいまちになるだろうな…と思うようになりました。

まちへの「愛着」

素敵なまちをつくるのに「ひと」は欠かせません。では、人はどうしたら集まってくるのでしょうか。
私は、その答えのひとつが「愛着」ではないかと考えました。
自分たちが住むまちに、自慢したくなるような魅力のあるコンテンツが数多く存在することで、人々はまちを好きになり、住みたい、住み続けたいと思える人が増えていくのではないでしょうか。
まちに住む人々が、普段の生活の中で、自分のまちに「愛着」を感じながら過ごすことができれば、そこに自然と賑わいが生まれ、まち全体が活性化してくるのではないかと思います。
それは、もともと幼いころから住んでいた人々はもちろん、このまちに移り住んできた人々も同様です。ここ栃木県真岡市で生活をしていく中で、新しい愛着が生まれることで、新しい視点で、さらにまちが発展するきっかけとなるかもしれません。
また、進学や通勤、結婚などを機に一度まちを離れた人も、真岡市の自慢が増えれば、まちへの愛着をずっともち続けていられるのではないかと思います。

私の考える理想的な「まち」

 では、「愛着をもてるまち」とはどんなまちなのでしょうか。

  • 魅力ある素敵なまち
  • 子育てがしやすいまち
  • 住みやすいまち

私は、住んでいる人々がこの3つをバランスよく実感できている「まち」が理想だなと思います。
そんなまちづくりの実現のために、私も何らかの形で関わることができないだろうか。日々そんなことを考えていました。

1冊の本との出合い

2021年。
世界中でコロナ感染症が流行し、私たちの日々の生活を一変させてしまいました。このことは、改めて自分や家族の「生き方」について、これまでとは違う考えをもつきっかけになりました。
そんな中、私自身が3人の子育てをする中で、同じ世代の友人や、保健師としての仕事でたくさんの方々と関わってきました。そこで、多くの刺激を受け、様々な生き方や価値観に気付くことができました。
同時期に、「人生100年時代」について、少しずつ意識をし始めました。これからの自分の人生を、どれだけ充実して過ごしていけるだろうか…。この頃は、まだ悩むだけで、自分の中では明確な答えが見つかっていませんでした。
ブルーベリーベースもおか

ある日、当時小学6年生になる娘が「将来」について質問してきました。
ちょうど私も「これからの自分の人生をどう歩んでいこうか」と見つめ直しをしていたタイミングであったこともあり、その答えのヒントを見つけるために本屋に立ち寄ってみました。そこで、1冊の本に出合ったのです。
さっそく、娘の将来を考えるのに役に立てば、と思って購入しました。しかし、娘よりも、私自身のほうが時間を忘れ夢中になって読みふけってしまいました。
その本にあった「仕事を始めてからも夢は見つかる」という言葉はとても心に響きました。ちょうど「生き方」を考えていた当時の私にとって、チャレンジへの一歩を踏み出す勇気をもらえた言葉だったのです。

なんとなく、就職したらゴールと思ってしまいがちです。しかし、仕事に就いてからのほうが人生は長いのです。大人になって働き始めてからも「自分のやりたいことは何か」「どう働いたら自分は幸せなのか」という問いはずっと続きます。(中略)
仕事を通していろいろな人に出会い、いろいろなことを経験すると、自分は今後どう働いていくべきか、どういう仕事をできたら自分にとって幸せなのかがはっきりしてきます。それは仕事を始めてから見つけた夢といえるでしょう。

出典:佳奈(著)池上彰(監修「なぜ僕らは働くのか」-君が幸せになるために考えてほしい大切なこと Gakken
ブルーベリーベースもおか
この本をきっかけに、これまでの自分の人生を振り返ってみました。すると、私の歩んできた人生は、大きな節目ごとに、自分自身の価値観が少しずつ変化してきたことに気付いたのです。

子どもの頃は
「病気の人を助けたい」
学生時代は
「みんなが病気にならないようお手伝いがしたい」
現在は
「大好きなまちを元気にしたい」
このように「個人→地域の人たち→まち全体」と、自分自身の成長に合わせて、対象が変わっていったのが分かりました。

人はいろいろなライフイベントに合わせて自分の生き方を見つめ直し、そのときの自分に合った働き方を考えていく必要があるのです。

出典:佳奈(著)池上彰(監修「なぜ僕らは働くのか」-君が幸せになるために考えてほしい大切なこと Gakken

自分自身の人生を見つめ直したことで、「これからの自分の人生をどう豊かに生きていけるか」を、より明確に考えるようになりました。そして、自分の好きなことを生かして、まち全体を元気にしたい――、そんな「夢」をもつようになったのです。

自分の好きなことを生かす

「自分の好きなことを生かす」って、どんな生き方だろう――。
自分自身のこと、健康のこと、このまちのこと、これからのこと…。
私は「保健師」としてのお仕事は大好きで、とてもやりがいをもってお仕事をさせていただいていました。
 
しかし、大好きなまちを元気にするために、自分の好きなことを生かすには、この仕事を続けていたのでは限界があるのではないか、と考え始めました。

今の仕事を辞め、新たな世界に飛び込むということは、一般的にいう「安定」を捨てることになります。
さらに、新たな事業を興すとなると、ライフプランにおけるリスクを伴うため、自分ひとりの問題では済まなくなってしまいます。

新しい人生を歩む覚悟

そんな想いや考えを、思い切って家族に話しました。どんな反応をされるか不安の中、相談しましたが…、なんと私の考えに賛同し、むしろ応援してくれたのです。

家族の協力を得られたことで、私の夢は、実現に向けて、大きく前進することになります。
そして2022年―。
頭の中で考えていても何も始まらない!
行動を起こすなら「今」しかない!と、1年後の2023年度末に保健師を辞める決心を固め、新しい人生を歩む覚悟を決めました。

元保育士のパートナー

また、家族以外の信頼のおける友人知人にも、私の考えや想いを話しました。
そんな中、私の夢に賛同してくれた元 保育士の友人がパートナーとして、一緒に歩もう!と決めてくれたのです。それはとても幸運なことでした。
家族ぐるみで付き合い、子どもの世代も一緒で趣味も同じであるそのパートナーと共に、「子育て世代」に寄り添うことのできるコンテンツの実現にまた一歩近づいたのです。
私の夢は私たちの夢になりました。
これまでの仕事を通して培った、全ての学びと経験は、必ずどこかで役に立つ!
前に踏み出す覚悟を決めた私は、「世の中の動きをしっかりとみて、柔軟に対応していくこと」「食の大切さ」「SDGsとの関わり」「まちづくり」など、これまでひとつひとつをでしか考えていなかったことを、それぞれを線で結ぶように考えられるようになりました。

夢の実現のための手段

夢の実現のために私が注目したのは「農業分野」でした。これまでの仕事とは正反対の分野です。
どうして「農業分野」に注目したのでしょうか。
ここ栃木県真岡市は農業と工業のバランスの取れた中規模な地方都市です。大きな工業団地があり、郊外には豊かな農地が広がっています。
特に農業分野では、イチゴ生産量日本一を誇り、市全体としてイチゴのPRを推進しています。しかし、その実情は、全国でも大きな課題である「高齢化」が進み、後継者不足が深刻化しています。長年営んできたイチゴ農家を廃業し、ハウスを手放してしまう方も少なくありません。
私は前職の保健師で、健康増進の観点から「食」の大切をたくさんの方に伝え、理解を訴えてきました。
「食」と「農」はとても密接な関係にあります。例えば野菜を苗から育て収穫までを一貫して体験した子どもは、出された料理を残さないで食べようという気持ちが高まるのではないかと思います。
私とパートナーの経験や知識を生かすと、「農業」に「食」と「子育て・福祉」が掛け合わさります。そうすれば、より魅力あるコンテンツになり、まちに賑わいが生まれ、まちへの愛着が高まる!と、そこに大きな可能性を見い出したのです。
しかし、私は農家育ちではなく、ごくごく一般的な家庭の出身です。農業に関するノウハウはもちろんゼロ。なんと、拠点となり得る農地すら持っていなかったのです。想いはあるけれど技術や環境が伴っていない、そんな状態でした。
そのため、まずは、農業に関する書籍を読んだり、インターネットから最新の情報を収集することから始めました。まさにまっさらな状態からスタートです。

なぜブルーベリーを選んだのか

そんな農業「超」初心者の私が選んだ農作物は、「ブルーベリー」です。
私たちの住んでいる真岡市は、イチゴ生産量日本一のイチゴ王国
そんな真岡市で営農を目指すには、支援の手厚い「イチゴ」が最適じゃないか、と考えるかもしれません。
私がなぜイチゴを選ばずに、数多くの農作物の中から、「ブルーベリー」を選んだのでしょうか。
それにはこんな理由があります。
ブルーベリーベースもおか
夫の実家の庭には、義父が大切に育てている地植えのブルーベリーがあります。毎年夏になると、たくさんの実がなります。

真夏の暑い日。
子どもが完熟したブルーベリーを摘んでその場でパクっと食べたときの笑顔。ゲーム感覚でブルーベリーを摘み取り、それを使ったスムージーや手作りピザを食べたときの子どもたちの満面な笑み。
私は、その風景を間近で見てきました。
それは、私にとって当たり前の日常でした。このように、ブルーベリーは、とても身近な存在だったのです。
いつしか、摘み取りを心から楽しんでいる子どもたちの姿と、自分の夢とをおぼろげながらつなげて考えるようになりました。こんな風景がこのまちに当たり前に見られたらいいなそんな場所をこのまちにつくりたいなと思うようになりました。
そのため、農作物の栽培に関して自然とブルーベリーの栽培方法を調べていました。そんな中、ブルーベリーには、「ポット式の養液栽培」という技術が確立されており、全国各地で、数多くの栽培実績があることを知りました。

この方法なら、非農家の私でもブルーベリーの美味しさをたくさんの方々に届けられる!ブルーベリーを摘み取る楽しさやそのスイーツを味わう嬉しさを知っている私にとって、このことは夢の挑戦にぴったりだったのです。

ブルーベリーの摘み取りをメインにした観光農園をここ真岡市に開園できれば、市内はもちろん市外からもたくさんの観光客をお招きすることができます。人々が集まることでまち全体が活性化し、まちがもっと盛り上がるはずだ!と、より発展的で具体的なイメージができたのです。
これまで地植えのブルーベリーしか食べたことのなかった私は、その夏にポット式養液栽培を採用しているブルーベリー観光農園に出掛けることにしました。

そこで実っていたブルーベリーは、見たことのないほどの大粒で、さらに口にすると衝撃的な美味しさでした。あまりの大きさと美味しさに、子どもたちも私もずっと笑顔で、摘み取る手が止まりませんでした。

farm
それからというもの、夏になると県内外のブルーベリー観光農園に出掛けたくさんの実践を学びました。その中でいくつかの観光農園のオーナー様とお話をすることができました。その話を聞きながら、私の中でブルーベリーで観光農園のイメージがどんどん現実化していったのです。

加えて、ブルーベリーは、イチゴと収穫時期が異なるのです。
イチゴは11月から翌年5月ごろが旬の時期です。その収穫時期が終わるころに、まるで合わせたかのように、ブルーベリーの収穫が始まるのです。
つまり、イチゴ生産量日本一の真岡市にとって、「観光農園」というコンテンツが初冬から夏にかけて長期に渡り提供できることになります。そうすれば、より多くの観光客をお招きすることができるようになり、まちの賑わいが持続的に広がる可能性を秘めているのではないか…。このことも理由のひとつでした。

このような理由から、私は、「農業」と「健康」そして「子育て・福祉」を結び付けたブルーベリーつみとり観光農園を、大好きな真岡市で開園することを決意したのです。

なぜ観光農園なのか

ブルーベリーは、多くの果実とは違い、摘み取った後に追熟することはありません。また、ブルーベリーの実は柔らかく、長期間常温での保存は難しいのです。つまり、完熟の実を摘み取った直後が一番美味しいのです。
このことから、完熟で甘いブルーベリーを思う存分楽しむためには、「つみとり観光農園」が最適であり、その贅沢な体験こそ、皆様に味わっていただきたいコンテンツなのです。

立地はいがしらリゾート隣接

2023年―。
たくさんのご縁により、非農家出身の私は62a(6,200㎡)の広い農地をお借りすることができました。

しかも、この立地は、令和4年度から真岡市が力を入れている「いがしらリゾート」エリアに隣接した場所です。
徒歩圏内に、年間90万人近くが訪れるという県営の井頭公園をはじめ、グランピング施設、温泉宿泊施設、イチゴ観光農園、市営駐車場があります。

井頭公園は、夏になると「一万人プール」がオープンし、県内外からたくさんの人が集まります。また、毎年9月には、「ベリテンライブ」が公園内で開催され、全国から1万人以上の方がこの真岡市に来てくださいます。さらに、毎年大規模なアウトドアフェスが開催されるなど、大注目のリゾートエリアとなっています。
その一角に私たちのブルーベリー観光農園を新たに展開することで、真岡市の自慢できるコンテンツが増え、まちの魅力をさらに向上できればと思っています。

ブルーベリーつみとり観光農園

ブルーベリーはたくさんの栄養価や健康メリットのあるフルーツです。
私は、このおいしさとやさしさが詰まった最高のブルーベリーを提供し、笑顔と癒しが生まれるつみとり観光農園を作っていきたいと思っています。
このブルーベリーつみとり観光農園が、サスティナブルなまちの拠点(BASE)になることで、大好きなこのまちを大きく盛り上げることができる!そう確信しています。
ブルーベリーベースもおか

さいごに


2024年3月末―。
私は保健師を早期退職し、真岡市でブルーベリーつみとり観光農園のオープンに向けた新たな挑戦に向かって歩み始めました。
「夢」で始まった想いが、私にとって大きな目標となりました。その挑戦にはたくさんの壁があり、乗り越えなければならない問題がたくさんあります。
実現までのストーリーを、そして、実現してからのストーリーも一緒に応援していただけましたら幸いです。

BLUEBERRY BASE MOKA
代表 北城早織里

– About Staff –
– 農園スタッフ紹介 –

代表
北城 早織里

保健師を18年間勤めた後、大好きなまちをもっと元気にしたいという夢の挑戦のためブルーベリー栽培農家に転身。
3人の子どもを育てるママ。
趣味は旅行。アイシングクッキー制作。

スタッフ
渡邉 直美

元保育士。まちの活性化のために自分の力を生かしたいという夢をもつ。代表の考えに意気投合し、観光農園の運営に携わる。
娘2人を子育て中のママ。
趣味はドライブ。推し活。